Stage for Cinderellaでは票交換は意味がない/アイドル間の共起について

Stage for Cinderella(以下SfC)の予選グループAが始まっています。予選では1票で5名を選ぶので、アイドル間の共起=「アイドルAが好きな人は他にどのアイドルが好きか」が収集できると期待できます。これを思うと昨今一般化している『票交換』という行動をSfCに持ち込むのは極めてもったいない行動であり、また票交換自体の意味も十分に弱くなっていることを説明します。

先に結論を書きますが、最も有効な投票の仕方は、 多くのアイドルに関心を持ち、あなたの好みを反映させて投票する ことです。

この記事は2022年7月、第一回Stage for Cinderellaを前提に書かれています。

Stage for Cinderellaとは何か

アイドルマスターシンデレラガールズで近年開催されてきた『シンデレラガール総選挙』が大きく形態を変えたものです。この新しい形態は、後述しますが 極めて面白い仕組み になっていると思います。大きな流れは次の通りです:

  • 全190人(2022年7月現在)のアイドルを4グループに分けて予選を行う
  • 各予選グループで6位~15位のアイドルを集めてプレイオフを行う
  • 各予選グループ上位5名と、プレイオフからの上位1名の21名で、シンデレラガールを争う本選を行う
  • 各予選にて一定数以上の投票をし続けることで、プレイオフや本選での投票権が手に入る

詳細は公式サイトを確認するのがよいでしょう。

sfcinderella2022.idolmaster-official.jp

過去の形式との違い

開催形態や投票の仕方は大きく変わっています。過去のシンデレラガール総選挙は、予選や本選といった概念がありませんでした。1票あたり1人に投票する単純な形式で、190人から1人を選んで投票します。SfCの予選は47~48人の4グループがあり、それぞれの期間で1票あたり5人を選んで投票します。プレイオフや本選は従来通り1票あたり1人です。本選出場アイドルも絞られています。

従来形式では属性ごとの上位3名の合わせて9名と、全体の上位5名で楽曲歌唱があり、全体の1位がシンデレラガールと呼ばれました。SfCでは予選ごとに上位5名で楽曲歌唱がそれぞれあり、本選の上位5名には楽曲や衣装とゲーム内イベント、そして本選の1位がシンデレラガールと呼ばれます。

また、SfCになったことで期間も大きく伸びました。従来形式では投票期間が1ヶ月ほど、結果発表まで1週間ほどでしたが、SfCは予選組み分けから本選の結果発表まで、丸1年を要します。

SfCの形式の何が面白いのか

過去の総選挙に対するコモンセンスとして、 「特定のアイドルに入れ込んでいる層」 と、理由はどうあれ 「状況によって投票先を変える層」 という整理は耳馴染みがあるものです(要出典)。

後者の層に想定される具体的な投票理由は、「次にシンデレラガールになりそうなアイドル」「次にCVを獲得しそう・してほしいアイドル」「話題になり注目されているアイドル」あたりが定番となるでしょうか。

SfCの形式は、 「特定のアイドルに入れ込んでいる層」に、行動の変化を促します

予選の投票時に5人を選ぶ形式から、これまでに目を向けてこなかった多くのアイドルに関心を持つきっかけが生まれます 。よく知らなかった子についても、ただ同じグループだからというだけで5枠を埋めなければいけないのです。

予選の投票アイドル選択画面。5人選ばないと投票ボタンが押せない。本来下にリストが並んでいるが、その順序もランダムになっていて徹底している

せっかくの投票権、担当アイドルとユニットを組んでいる子やシナジーのある子を選ぶようなことも考えられますが、 5枠もあるとそれだけで埋めきるのは大変です。自分が関心を持てる子や、見た目が好みという選び方でもよいですが、 何らかの選択を迫られます

入れ込んでいる1人が本選に出場できなかった場合、「入れ込んでいるアイドルと同じグループ出身のアイドル」や「ユニットを組んでいる・縁深いアイドル」を支援するといった行動も出てくるでしょう。入れ込んでいるアイドルが複数なら、残った子を支えていくことになるでしょう。

これまでずっと固定されていた投票先に広がりが生まれることによって、予期せぬ幸運な出会いが起こることもあるでしょう。思いがけない良い組み合わせが見つかることもあるでしょう。しかし SfCの形式は、もっと価値ある情報を主催者にもたらします

イベント主催者にとって

SfCの主催者は、予選の投票傾向やプレイオフ・本選での投票傾向を組み合わせて、 「あるアイドルに投票している人はこんなアイドルに投票している」 という情報を知ることになります。

この情報は、過去に数回開催されたユニット総選挙の形式とも異なる角度のものになります*1。好きなアイドル上位の寄せ集めだけで固めて済ませてしまうには、グループ分けによる分散と5人選ぶという制約が許してくれません。そして 投票しないと本選の票が減るという制約 により、否応なしに一定票を投じることになります。

ユーザー別に投票数を集計してその分布を標準化すると、投票数によらない 「あるアイドルに投票している人はこんなアイドルに投票している」という情報が手に入る というわけです*2

余談ですが、自然言語処理の世界には「共起(co-occurrence)」という言葉があります。文章や文の中で、単語Aと単語Bが同時に出現することを言います。ですからSfCの形式のもとでは、「アイドル間の共起」が抽出できることになります。以後この関係を 「アイドル間の共起」 と呼ぶことにします。

票交換とは何か

これまでの票交換

過去に行われたシンデレラガール総選挙では、ボイスアイドルオーディションなどの別イベントが併催されることがありました。シンデレラガール総選挙は全アイドルが対象であることに対し、ボイスアイドルオーディションはCV未獲得のアイドルだけが対象となります。

あるアイドル特定個人を応援している場合をイメージすると、CV有無の時点で どちらかの票の重要度が低い ことになります。ここで生じた動きが『票交換』でした。シンデレラガール総選挙の票を余らせている人間と、ボイスアイドルオーディションの票を余らせている人間で結託し、 互いに相手が望む対象に投票する行為 を指します。

SfCにおける票交換

SfCの予選では1票あたり5人を選んで投票します。4グループに分かれたうえで5人選ばなければならないので、5人の枠が最初から埋まっている人は相当推しが多くても珍しいです。あるグループで埋まっていたとしても、他のグループまで同じ状況にはそうそうなりません*3。こうして 余っている枠同士を、互いに埋め合う行動として票交換が生じています

また、上記は予選グループ内における票交換を扱っています。グループ外の票交換も考えられますが、手に入る票数が変わったり、期間が空くことによって履行できない可能性があり、グループ内と比較してさらにハイリスクです。

SfC予選における票交換に意味はあるのか

SfCにおける票交換は、簡単に考えても、意味がある場合とない場合がはっきり分かれます。

  • 意味がある相手が投票するつもりのなかったアイドルに、その働きかけによって投票してもらえるとき
    • 万年強者で敬遠されているアイドルや、選択肢に挙がる頻度が低いアイドルの視点では効果が高い傾向があります
  • 意味がない相手が投票するつもりだったアイドルに、利害が一致するからと枠交換をしたとき
    • あなたが票交換をしなくてもその票はあなたが投票してほしいアイドルに入るのであれば、他の人を選ぶべきです

心情的には繋がりのあるアイドルと交換したいという気持ちはわかりますが、 利害が直接一致する相手と票交換をすると損をします 。5人から漏れてしまいそうなところで確定させに行くという考え方もできますが、その場合でも 投票するつもりがなかった相手に全票割かせるのが最大の効果があります

具体的に同じ票数を持っている二者間での交換を考えると、3割くらいの割合で投票してくれそうな相手に交換を持ちかけて追加の7割を取って10割にするより、手を出さずに3割くらいの票を入れてもらって他から10割取ってくる方が、増えた票数は3割ぶん多くなります。交換しなかった相手が他の人と交換成立して3割ぶんを持っていかれても、あなたは10割から3割分引いて7割の票を新規に獲得していることになって、期待値的には常に 自分が投票を望むアイドルに投票予定がなかった相手を選ぶのが常に得です。

Aさんは、アイドルXを応援していて、票交換をしようとしています。Bさんは、アイドルXに3割くらい投票しようとしています。Cさんは、アイドルXに票を入れる予定がありません。
凡例。同じ票数を持つ3人を考える。

AさんとBさんが票交換すると、Bさんが他の子に投票するはずだった70票がアイドルXに入って、票交換の効果で70票得する。AさんとCさんが票交換すると、Bさんはそのまま30票、Cさんが新たに100票を投票する。アイドルXは票交換の効果で100票得する。もしBさんがAさん以外と票交換を成立させた場合、票交換の効果で100票得したうえで、Bさんの見込み30票を失うので、70票の得になる。これはAさんとBさんが票交換したときと同じ効率である。
票交換をして増える票数は、投票するつもりがなかった人間と交換した方が多い。
Cさんが次回以降アイドルXに投票してくれるようになると、もっと嬉しい。

一方で、これが 5人集めて融通する場合には 、投票予定のなかった相手を複数人捕まえられる可能性があるので 最大効率は5倍 になります。この結果を確定させるためには「4人集まっていて投票させたいアイドルがまだ含まれていない集団に5人目として入る」が一番効果が高い行動になります。

少なくとも、自分が票を集めたいアイドルが既に投票先に含まれている集団に入るのは誤りということになります。逆に言えば、既に自分が投票してもいいなと思っているアイドルの枠が指定済みで、自分が投票させたいアイドルの枠が未指定なところには、入り得だということがわかります。

しかし、効率が良いからといって、それは勝利につながるのでしょうか?

SfCの予選で票交換をするのは得策なのか

結論から言えば SfCにおける票交換は得策ではない と思います。

得票数を最大優先とし本選に出場する・楽曲を得る・CVを獲得することだけを目指すのであれば、一見は票交換が有効な手段であるように見えます。

しかしこれは 票の底上げにのみ効果があります 。なぜなら、グループ内の相手と票交換をする限り、結託した相手が同格ライバルに投票を望む可能性があるためです。同格ライバルと票交換をした場合、あなたの行動によって同格ライバルとの差が詰まることはありません。これを回避するためには 圧倒的な格上か圧倒的な格下とだけ票交換を成立させる必要があります 。この状況を成立させるのは、同格ライバルを応援する人も同じ行動をしてくると考えれば、これを高効率な手法で叶えるのは現実的にかなり難しいと思います。

より上位の1名、近い順位の2名、下位で近い順位の2名を考える。この5名に結託して投票が行われたとき、全員が同じだけ票数を伸ばすことになるが、近い順位の2名同士の差には変化がない。
票の底上げの効果はあるが、ライバルとの差は詰まっていないことを示す図

当然、同格ライバルを含んだ票交換によって他者を引き離すという考え方もできます。この効果を十分に得るには、ある程度同格ライバルの陣営レベルで結託した行動が必要になるでしょう。一方で、予選のグループはランダムに4分割されます。結託可能な相手を選び続けることは難しいでしょう。また、 ライバル間に差をつけるための行動が「結託しない」になる ので、囚人のジレンマと称される状況に近くなります。裏切った方が得であると考える人間が少なからず生じるとみえ、 大規模な結託行動は成立させるのが極めて困難 でしょう。

一方で票交換をまったくやらない場合も、周りはやっているので自分だけが損をすることになります。これが票交換をややこしく、チキンレース的にやめづらくしています。*4

以上から、 票交換をして意味がある相手というのは、同格ではなくて、相手が自分の望むアイドルに投票予定がない相手 、ということになります。自分はあわよくば相手の望むアイドルに投票してもよい場合にはより効果が高いです。上述したようにこれを高効率な手法で叶えるのは難しいので、票交換をしただけでは、あなたが応援するアイドルの順位はそこまで効率よく上がらない 、しかしある程度はやらないと応援しているアイドルだけが損をすると考えられます。

「アイドル間の共起」があると何が嬉しいのか

この項目はすこし妄想の割合を上げて記述しますが、長期的にユーザーの満足度が高まっていくと思います。

アイドル1人に背負わせられる物語の量には限りがあります。メモリアルコミュや特訓エピソード、メインコミュを経ていくと、どんどん次の課題をアイドルに課さねばなりません。しかし 課題を乗り越えたアイドルは成長してしまいます 。一方で今のところ歳を取らないアイドルたちは、 どんどん人間離れしていってしまいます

ユニットや複数人での展開を広く持っていると 、この組み合わせのときは誰々がカバーしてくれたから突破できたが、この組み合わせのときは苦戦しつつも本人が一歩踏み出して突破した、といった形で ひとつの課題点を多角的に描きやすい です。より人物像に深みが出て、アイドル間の関係もより強固なものになっていきます。

どうにもならない性質の話として、デレステの年間イベント数が決まっている以上、年間のオリジナル新曲数も上限があります。楽曲制作のライン数上限もあります。イベントで多人数ユニット展開を増やして枠数自体を増やしたり、ゲーム外の出番を増やし露出機会自体を増やすことで活躍の場を広げる方法があります。

そんな中で出番を作るのであれば、どうせならみんなに、より喜ばれる組み合わせがよいはずです。それぞれがかわいいだけのアイドルではないことは、私たちは良く知っています。ただ人気がある子や共通点がある子の寄せ集めではなくて、お互いに補いあえたり、強みをより強くできるような組み合わせを選んで、意味のある話をしたい はずです*5

SfCの形式のもとで、予選から本選まですべての投票から見出される「アイドル間の共起」は、おそらく私たちの目に直接は見えない形で活用されることになると思います。イベントだけでなく、ガチャの登場順や同時登場にも影響してくるかもしれません。

SfCの形式では、みんなが声には出さないし、もしかしたら気付いていないけど、 実はとっても求められていた組み合わせがあぶりだされる のです。

だから、票交換はもったいない

じゃあ票交換もそうやって、良い印象を持っている子同士でやったらいいんじゃないか。そうしたら「アイドル間の共起」を乱さないじゃないか。と思った方はよく思い出してください。

自分が投票してほしいアイドルに相手が投票するつもりだった場合に、 利害が一致するからと枠交換をしたときは、純粋にあなたが票を損する のです。票交換によって自分が投票してほしいアイドルの票が増えないからです。もっとも単純化した場合はこの行動は誰もしないことになります。

相手が投票してほしいアイドルに自分が投票するつもりだった場合には、自分が生み出す「アイドル間の共起」は乱されません。一方で上述のパターンから、相手は損を回避しようとして結託を選ばないので成立しないか、損を承知で票を吐いて楽になろうとするかですが、後者は 決定的な差を生み出せない可能性が高いので意味が薄い ことは説明済みです。

互いに相手の投票先に投票する予定がなかった場合は最大効率になりますが、これは決定的に 本来収集されるべき「アイドル間の共起」を乱す ことになります。同時に ライバルとの差をつける行動にならない ことも説明済みです。

票交換は、
全然得にならないのです。

均等投票も、もったいない

たった一人だけに票を入れたことにしたいので、その子にだけ集中させて、他のアイドルに均等に投票するという行動も考えられます。

これもまた「アイドル間の共起」を乱す行動です。応援したいたった一人と一緒に活躍するなら誰が良いか、を埋め込んだ結果になるように、 多少の濃淡を付けたほうが長期的に得です。

一番効果が高い投票の仕方は、 多くのアイドルに関心を持ち、あなたの好みを票に反映する ことです。

自分自身を含め、同じアイドルが好きな人を大事にする

これは余談になりますが、同担は大事にすべきです。

自分の好みを票に反映することが最も効果が高い投票の仕方であるとき、あなたが応援するアイドルをより多くの人に好きになってもらうことが、Stage for Cinderellaで最も意味がある行動 であることは、説明不要でしょう。

このとき、応援する アイドルのどのような点を気に入ってもらえるかは、相手によって千差万別です。 ビジュアル面や人物像、強いところや弱いところ、パブリックイメージとのギャップがある部分、あるいは歩んできた道のりや、これから期待できること、などなど。○○さんが語るそのアイドルが魅力的、ということもきっとあるでしょう*6

そう、「属性だけではわからない」のです。

すると、同じアイドルが好きな人々の中でも 好きなところがそれぞれ違うということは、猛烈なアドバンテージ になります。ですから、既にそのアイドルを好きな人がもっとそのアイドルを好きになれるような行動が、SfCの形式のもとで大きな意味を持つ行動である と言えます。

おわりに

SfCの形式では「アイドル間の共起」、すなわち アイドルAが好きな人は他にどのアイドルが好きか」という情報が取り出せる ことを説明しました。これまでの流れで安易に行われやすい 票交換は、意味がある状態を作るのが難しい ことも説明しました。よければ、ご自身の行動の参考になさってください。

票交換をしたい人は、したら良いと思います。それよりも私は、「アイドル間の共起」が適切に収集され、より面白い展開が生じてくることに強く期待しています。

そんなの夢物語だろうと思う方もいるかもしれませんが、 喜多日菜子のPが夢物語を本気で信じなくてどうするというのでしょうか?

この夢が大きく実ったら良いと思う💭ので、この記事を書きました。私はなんだかんだシンデレラガールズが好きで、もっと楽しみたいのです。あなたもたぶん、好きでしょう?

この記事が参考になったと思ったら、もし喜多日菜子に投票するつもりがなかったのであれば、ぜひ喜多日菜子に投票をお願いします。*7 喜多日菜子は予選Aグループにエントリーしています。投票期間は2022年8月14日まで。

投票方法はこちらから。 【デレステ】ちひろのStage for Cinderella講座 予選グループ編【アイドルマスター】 - YouTube

喜多日菜子について、もっと知る

berlysia.hatenablog.com

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*1:おそらく第一回の時点で非公式ユニットの存在が強く認知された結果、一定順位までを開示して公式ユニット化の後、もっと下の順位に存在する微かな分布をより直接取りに行こうと考えて、SfCの形式がこうなったのではないか……と後知恵で筋を見出すことはできそうです。

*2:当然、ゲームプレイ頻度やライブイベント参加頻度、課金額といったクラスタリングのもとでの分布も手に入るはずです。Pグリを経由すれば他コンテンツでの担当アイドルも見えてくるでしょう。

*3:計算しようとしたけど全事象の時点で570桁くらいになったのでやめた。この数字がなくても言いたいことは特に損なわれないため

*4:明示的に書いておいた方が良さそうなので追記

*5:逆に人気がある子や共通点がある子だけで盛り上がっていけばいいとあなたが思うなら、その好みを表に反映した投票をあなたがすればよいです。一方でこの形式はその流れからは逆行しています

*6:二次創作などをイメージしています

*7:喜多日菜子に投票するつもりだった人は、もっと多く投票してくれると、とてもうれしいです。