2024年9月14日と15日、THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT FANTASYが開催されました。この公演において、喜多日菜子役の深川芹亜さんを含めたメンバーで『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の披露があったことは、多くの驚きをもたらしました。とりわけ喜多日菜子というアイドルがこの曲を歌うことは、それだけ意義深いことなのです*1。
思うに、喜多日菜子が『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』(通称:ガルフロ)を歌う準備が整ったのはこの公演が初めてかつ、最良の機会でした。この記事では、喜多日菜子のこれまでの歩みを簡易に振り返り、喜多日菜子が『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』をいかにして歌いえたかを述べます。
- この記事の前提
- パブリックイメージとしての喜多日菜子
- 楽曲『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』
- 喜多日菜子と『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』
- 喜多日菜子はいかにして『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』を歌いえたか
- 喜多日菜子のあゆみの現在地
- ステージ上の深川芹亜さんを見ろ
- いつでも、今がいちばん
- 追記:深川芹亜さんのブログを見ろ
この記事の前提
この記事では、デレステ世界とモバマス世界を同一視せず、それぞれの世界のアイドルを、同じ魂を持つ別の人物のようにとらえます。モバマスが終了して現在得られる唯一の情報源がデレステであることと、先のライブがデレステ周年ライブであることを思うに、最終的にはデレステ知識のみで整理することが適当だと考えるからです。
一方で、喜多日菜子についてのコンテンツ外からの受け取り方を思うときは、パブリックイメージとしてのアイドル喜多日菜子を扱いたいので、デレステ世界とモバマス世界を含めたあらゆる公式の展開を意図的に混ぜて扱うことにします。
パブリックイメージとしての喜多日菜子
喜多日菜子はアイドルで、妄想が趣味の15歳です。童話をはじめとする多様な物語に触れて育ち、たくさんの人に愛され、素敵な王子様が迎えにきてくれるようなお姫様になりたいと願って、日々努力を重ねています。
日菜子は王子様に見つけてもらうことを夢みてアイドルになりました。ステージやテレビで活躍すれば、王子様はきっと日菜子を見つけてくれると考えたからです。
いつしか日菜子にとって、アイドルは王子様に見つけてもらう手段というだけでなく、それ自体が楽しいものになっていきます。衣装を着て、歌やダンスのパフォーマンス、アイドルの仲間たちやファンのみなさんと妄想を分かち合うこと。いつか王子様と出会うことができたとしても、アイドルを続けていきたいという意思があります。*2
物語に描かれる冒険には試練がつきものですが、その先には宝物が待っているものだと知っています。苦難に折れず立ち向かい、自分の夢を叶えようとする主人公らしさを備えていて、劇中劇においても主人公や状況を動かす中心人物を任されてきました。*3
最近では妄想の制御が上達しており、自分の妄想を押し付けるばかりでなく互いのイメージをあわせて一緒に楽しむこともできるようになりました。日菜子の持つ多彩な妄想の世界「日菜子わーるど」はいま、共演するアイドルや、ファンたちに対しても開かれています。*4
楽曲『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』
『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』は、アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ3周年記念楽曲です。いわゆる「周年曲」のひとつであり、その曲調もさることながら歌詞の言葉遣いも含めて、極めて前進的かつ挑戦的な曲です。
お気に入りだったフェアリーテイル なぞるように生きてきたけれど 幸せの そのイメージは 今では もうホコリかぶりで 窓の外 瞬く星が 悔しいくらいに眩しいから 手を伸ばし 強く願うよ 舞踏会より煌めく場所 待っていても手には入らない 本当の宝物は 叫ぶよ 'cause I love you! 自分の言葉で 拓け! バックパックに希望つめて 自分の足で歩け シンデレラ 夢は他人に託すな かけがえない権利 お仕着せの幻想 捨てて 新たな地平へと飛び出そう 守るべきは過去じゃない ずっと stay at the frontier!
この楽曲の挑戦的なところをあえて今説明しようというなら、「シンデレラ」の名を冠するタイトルのもとで、そこに描かれる幸せなるものとは、灰ならぬホコリかぶりだ、と言ってのけることから始まります。窓の外に瞬く星々は先行くアイドルたち、少女が望むのは舞踏会より煌めく場所。誰かが用意してくれる馬車やドレスの先にある古い価値観の幸せは置き去りにして、自らの意思で道を拓き歩んでいけ、歩み続けろというのです。これ以上の歌詞の説明は蛇足でしょう。
実際、デレステ3周年以後のシンデレラガールズはさまざまに、それまでとは一線を画す挑戦をしてきています。しかしこの楽曲も含めて、これらの挑戦については必ずしも好意的な反応ばかりではありませんでした。置いていかれた、突き放されたと感じる者も少なからずありました。それでもいまなおシンデレラガールズというタイトルが一線で歩みを続けているのは、『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』に歌われる開拓の精神が功を奏した結果でしょう。
喜多日菜子と『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』
デレステ3周年楽曲である『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の初披露は、デレステの3周年記念ライブである、「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS SS3A Live Sound Booth♪」、通称SS3Aで行われました。
SS3Aは、喜多日菜子役の深川芹亜さんが、喜多日菜子役としてゲスト出演する初めてのライブでした。day1ではシンデレラガールズ5周年曲『EVERMORE』、day2では第7回シンデレラガール総選挙9人曲『Trust me』を歌唱しています。
ライブでの初お目見えの機会がSS3Aという同じライブであることに加えて、『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の2番の歌詞をここで確認してみます。
誰かみたくなろうとして 誰かの後 追いかけてみても 王子様は待ってないし ガラスの靴はイミテーション
いつか王子様に出会うことを夢みてお姫様のようなアイドルを目指した喜多日菜子を思うとき、この言い回しはいかにもクリティカルであるように見えるかもしれませんが、当時最新の喜多日菜子はこのフレーズに対する回答をすでに持っていました。
SS3A開催の2018年9月に先んじて、8月に公開された喜多日菜子のSR[見果てぬ夢]に描かれているのは、これまで通りにただ待っているのでなく、王子様を探して自ら外の世界へ繰り出すお姫様の姿です。
喜多日菜子はいかにして『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』を歌いえたか
[見果てぬ夢]の頃
先述の通り[見果てぬ夢]は、それまでの「王子様に迎えに来てもらえるお姫様」という価値観にとらわれず、自らの意思で外の世界へ王子様を探しに繰り出していく姿を描いています。
「待っていてくださいね、日菜子の王子様」という言い回しもありますが、日菜子は最初から都合よく王子様が待っていてくれるとは思っていません。王子様に出会うためならたとえ火の中水の中、艱難辛苦を乗り越えて、それでもいつか巡り合うことを信じているのです。
一方これはモバマス世界での説明であり、この知識はデレステ世界に直ちには持ち込まれていないと考えるべきでしょう。
[トゥルー・ドリーム]の頃
デレステのブランフェス限[トゥルー・ドリーム]の特訓後は、「王子様に迎えに来てもらえるお姫様」そのものを、ストレートに描いています。
モバマス世界では[見果てぬ夢]の登場により、もともと夢に見てきたシチュエーションが直接叶うのを待たずにお城を飛び出してしまいました。デレステ世界ではこうした発展形に臨んでいくまえに、本懐を果たす形のシチュエーションも達成しています。
[トゥルー・ドリーム]については、次の記事でよく説明しています。
『世界滅亡 or KISS』の頃
喜多日菜子ソロ楽曲『世界滅亡 or KISS』では、「悪い魔女」の呪いと「良い魔法使いさん」の助言により、自ら王子様を探しに行くことを決意する「私」の姿が歌われています。結論から言えば、楽曲中の「私」は「自らの意思で道を拓く」ような選択をします。
改めて「私」の旅路の果てにあるものや、喜多日菜子の曲として受け取るときに見えてくるものについては、次の記事でよく説明しています。
デレステ内でプレイアブル楽曲として追加された際のエクストラコミュでも、楽曲の内容を受けて、王子様を待っているだけでなく自分から会いに行くのだ、たとえどこにいたって、どんな顔だかわからなくたって、という喜多日菜子の姿勢が確認できます。
喜多日菜子のメンタリティー、まさにこの「待っているだけじゃ、王子様は見つけられない」なんですよね。これまでのコミュをちゃんと読んできていないとわからないことが超簡潔にまとまっているのです pic.twitter.com/hbTSp4l2DR
— berlysia💭❤️🔥 (@berlysia) 2020年8月8日
『ワタシ御伽ばなシ』の頃
先のSTARLIGHT FANTASY公演でライブ初披露となった『ワタシ御伽ばなシ』ですが、その初お披露目となったデレステ内イベントのコミュにおいても、喜多日菜子は極めて興味深いことを言っています。
王子様を自らの意思で探しに行くという[見果てぬ夢]や『世界滅亡 or KISS』周辺にもあった話題に加えて、「日菜子の物語は、日菜子の歩いた道にできるんです」という言い回しも含めて、『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』に歌われる精神に通じていると言い切って差し支えないでしょう。
喜多日菜子のあゆみの現在地
ご覧いただいてきた通り、『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』を歌うに足る人物として、喜多日菜子はその歩みを着実に積み重ねてきていたのでした。
あるときまで お気に入りだったフェアリーテイル
を なぞるように生きてきた
喜多日菜子が、いまや 自分の言葉で
、 誰かの後追い
ではない日菜子自身の道を、歩んでいっているのです。
デレステ9周年楽曲『Fantasia for the Girls』の登場により、前進的かつ挑戦的な楽曲の代表の座は『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』からある程度移っていくことでしょう。この代替わりを迎えるにあたって、喜多日菜子がこれだけの位置にあるうえで『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』を歌ったことは、長らくの因縁に整理をつけることに他ならず、喜多日菜子もまた憂いなくこれからの道行きに歩んでいけることを示してくれた、と受け取っています。
喜多日菜子が『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』を歌うとはどういうことか、その意味を日菜子Pの人たちがどう受け取っているか。どうしてあんなにも喜んでいたのか。これはあくまで私ひとりの視点にすぎませんが、この記事を通じて少しでもその深みを感じていただければと思います。
ステージ上の深川芹亜さんを見ろ
幸いにしてこの記事の公開がSTARLIGHT FANTASY公演のアーカイブ配信期間に間に合いそうなので、珍しく深川芹亜さんのパフォーマンスについても触れておきます。
深川芹亜さんのダンスを見ろ
この記事の主題からまず『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の話をすると、そのポジションは話題にしておかねばなりません。
【THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT FANTASY】
— 深川芹亜 (@seria926) 2024年9月14日
DAY1ありがとうございます⚔️
ガルフロでの初めてのセンターだったり色々お話したい事はありますが....
プロデューサーさん、日菜子ちゃんの歩み見てくれましたか?🥺
妄想を現実に、そして役に入り込む彼女の物語!明日も続きます!#cgSF_day1 pic.twitter.com/GmlKLtJGiF
後列センター(いわゆる『裏センター』)とはいえ、喜多日菜子役としてのセンターポジション披露は、多人数曲では初のことでした*5。そのポジションはパフォーマンスを、それもダンスパフォーマンスを期待されてのものだと理解しています。
私はダンスにまったく詳しくないのでズバリの言葉を持ちませんが、たとえばスカートが一番綺麗に揺れているだとか、手足の振りの大きさ・メリハリだとか、しっかり肩が入っているだとかが、この印象を与えるのだと思っています。
今でもたまに飲みの席で話題にするのですが、6th名古屋公演の『秋風に手を振って』で一番踊れていたのは深川芹亜さんだったと記憶しています。個別衣装だったせいもあってか、シルエットの動きが本当に綺麗に見えたのでした。
STARLIGHT FANTASY公演の中だと『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』のほかは『アンデッド・ダンスロック』も必見の部類です。同時視聴等の際にぜひご確認ください。
MCパートとわちゃわちゃパートの深川芹亜さんを見ろ
マルチアングル版のアーカイブを購入した方はCH2の正面前景の右端にうつっているのが深川芹亜さんです。最初はマリオネットで青い衣装なので、赤い衣装の小森さんとは区別がつくと思いますが、ご覧の通り他の方のトークに反応して一生動いてます。かわいいね。
今回の公演で『BEYOND THE STARLIGHT』と『お願い!シンデレラ』にあったいつものフリーパートでは、いつもほとんど喜多日菜子です。喜多日菜子が実際にそうするところを目撃したことはないけれど、飛んだり跳ねたり走ったり王子様探したりむふむふしたりと、他キャストに絡んでるとき以外は基本的にどこを切り取っても喜多日菜子をやっています。他キャストと絡んでるときはさすがに深川芹亜さんですが、そういうところもちょっとずつ喜多日菜子にもなっていくのでしょう。
深川芹亜さんの歌唱と表情を見ろ
深川芹亜さんの歌唱の良さは、演技力・表現力から効いてきます。決して技巧的なわけでも、華のあるロングトーンが出たりもしませんが、その曲その場面に応じたパワーがこもっています。
たとえば『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』の歌い出しも、同曲イベントコミュやライブ中シナリオを思えば、物語の登場人物を演じてきたマリオネットたちが勇者として立ち上がり決戦に挑むにはこれ以上ない譜割りと合わせて、その勇姿を演じる喜多日菜子が見せるべき凛々しさとしてふさわしいものだったでしょう。(この話をもっとするには『ワタシ御伽ばなシ』のイベントコミュについて整理しておく必要があるので、ここでは深く扱わないでおきます。)
『クレイジークレイジー』では……ほら、みんな、おかしくなっただろ?
いつでも、今がいちばん
深川芹亜さんはいつも、とくにライブの場を通じて、日菜子ちゃんを好きになってくださいねと言ってくれています。今回もday1の挨拶はこうした趣旨の内容でした。
実際にパブリックサーチをしていると、深川芹亜さんのパフォーマンスや有り様に撃ち抜かれて喜多日菜子に関心を持つ方は、毎回1人や2人ではありません。
喜多日菜子というアイドルは、その歩みは、贔屓目を抜きにしても随一の面白さがあります。しかしその面白さを受け取るには、まずなによりその存在を知られなければなりません。
190人という人数のアイドルを擁し、ゲーム内イベント登場の機会もモバマスのクローズとデレステのサイクル変更に伴って、出会いの機会は少なくなっています。
そんな中で、前半で述べたようにテキストの面ではこれだけ精緻な話題のコントロールがなされていることは、少なくとも喜多日菜子というアイドルを大切に扱おうとしていることの証だと思いますし、何より深川芹亜さんが喜多日菜子の憑座として着実に成果を挙げていることが、頼もしく、誇らしく……私も負けていられないと思うのでした。
胸を張って、今がいちばん、喜多日菜子が好きだと言える。こんなに嬉しいことはありません。
追記:深川芹亜さんのブログを見ろ
ありがとうとしかいえない
おれも喜多日菜子役という縁で存在を知ったけれど、この表現者に出会えてよかったよ